脳神経内科 (166号掲載)

2017年02月更新記事
神経難病とは (4)

今回は進行性核上性麻痺を取り上げます。この病気は人口10万人あたり10~20人程度と推測されています。50歳台から70歳台に多くみられ、「転びやすい、眼の動きが制限されて下を見ようとしてもうまくできない、喋りにくい、飲み込みが悪い、認知機能の障害が起きる」などの症状が代表的です。最近ではこのような典型例以外にも、パーキンソン病類似のケースやすくみ足が先行して長期間経過するケースなど、特殊なタイプが知られるようにもなってきました。
この病気は最初に転びやすいことで気づかれることが多いですが、これは姿勢が不安定になるとともに危ないと判断する能力が低下するために起こります。家族が何回も注意しても不意に歩き出して転倒を繰り返す傾向にあります。バランスを崩したときに手で防御することも忘れるので顔面や頭部に怪我をすることが少なくありません。転倒を繰り返すたびに徐々に運動機能が低下して、4~5年で寝たきりになることもあります。食事に関しても口の中のものを飲み込まないうちに次々と食べ物を詰め込んでしまうので注意が必要です。抗パーキンソン薬などが使われますが、効果は限られています。筋力維持の運動やバランス訓練、発声・嚥下の練習などのリハビリを続けることが重要です。

つちやま内科クリニック

土山雅人(日本神経学会専門医)
西宮市段上町1-1-22(甲東園駅東へ3分)
TEL:0798-57-3600
http://www.tutiyama-clinic.com/

脳神経内科 (165号掲載)

2016年12月更新記事
神経難病とは ③

今回は多系統萎縮症を取り上げます。この病気は全国で約1万2千人の患者さんがおられます。主要な症状は動作緩慢などのパーキンソン症状、ふらつきなどの運動失調症状、排尿障害などの自律神経症状です。臨床経過から次の3つの病型に分けられます。【1】線条体黒質変性症(約30%):パーキンソン症状から、次第に運動失調症状や排尿障害などの自律神経症状が加わる、【2】オリーブ橋小脳変性症(約60%):運動失調症状から次第にパーキンソン症状や自律神経症状が加わる、【3】シャイ・ドレーガー症候群(約10%):自律神経症状から、次第にパーキンソン症状や運動失調症状が加わる。運動失調症状にはタルチレリン(商品名:セレジスト)、パーキンソン症状には(本症では効果が期待しにくいが)抗パーキンソン病が用いられます。自律神経症状には各々の症状(排尿障害、立ちくらみ…)に応じた治療が行われます。本症のみならず神経難病一般において、活動が低下することで筋力が低下してより転びやすくなる、意欲が低下してうつ状態になり寝たきり状態になる「廃用症候群」を防ぐことは重要です。その意味からも筋力増強訓練、反復訓練による協調運動改善の訓練などリハビリテーションは機能維持に有効とされています。

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脳神経内科 (164号掲載)

2016年10月更新記事
神経難病とは ②

代表的な神経難病について解説していきますが、このシリーズではパーキンソン病以外の稀少難病について取り上げます(パーキンソン病は別のシリーズで解説します)。今回は「脊髄小脳変性症」を取り上げます。
本症は全国で約3万人の患者さんがおられます。その三分の二が原因不明(孤発性)、三分の一が遺伝性とされています。孤発性の大部分は多系統萎縮症(次号で解説)という疾患です。話がややこしいですが、広義の脊髄小脳変性症のなかに多系統萎縮症が含まれると考えてください。
この病気では小脳、脳幹、脊髄などの神経細胞が脱落・消失してそれらの萎縮がみられます。主な症状は運動失調(力は入るが目的の動作がうまくできない)で、その他は個々の例ごとに付随する症状(筋肉のつっぱり感、排泄の障害…)は異なります。この運動失調のために目的の動作をする際にいくつもの筋肉を協調して動かすことができなくなり、バランスが悪くなって歩行が不安定になる、物を取ろうとしても手がうまく届かない、声の大きさや高さが安定せず喋りにくいなどの症状がみられます。治療薬としてはタルチレリン(商品名:セレジスト)があります、ほかにも付随する症状に応じた薬が用いられます。集中的な入院リハビリが有用との報告もあります。

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脳神経内科 (163号掲載)

2016年08月更新記事
神経難病とは ①

難病とは昭和47年の「難病対策要綱」によって、1)原因不明、治療方針未確定、かつ後遺症を残す恐れが多い疾病、2)経過が慢性にわたり、経済的な問題のみならず介護などに人手を要するため家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病と定義され、難病医療がすすめられてきました。そして平成26年になって「難病の患者に対する医療費等に関する法律」が新たに定められて、1)発病の機構が明らかでない、2)治療方針が確立していない、3)稀少な疾患である、4)長期の療養を必要とするという基準が設けられました。さらに5)患者数が本邦において一定の人数(人口の約1%程度)に達しない、6)客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立している疾病は医療費助成の対象とする「指定難病」として扱われることになりました。この指定難病は平成27年度には306疾患、約150万人の患者さんが認定され、1820億円の事業規模になっています。
難病には各種の臓器が障害されるものがありますが、神経難病は脳や脊髄、末梢神経等の神経細胞や筋肉などの細胞が障害される原因不明の疾病を指します。そのなかには次第に神経細胞が脱落・消失する神経変性疾患や脱髄性疾患、免疫異常による疾病などが含まれます。次回から代表的ないくつかの神経難病について解説します。

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脳神経内科 (162号掲載)

2016年06月更新記事
新しい認知症疾患 ②

最近注目の認知症として前回の嗜銀顆粒性認知症に引き続き、今回は神経原線維変化性認知症を取り上げます。
以前からアルツハイマー型認知症(AD)と同じように海馬領域に多数の神経原線維変化(主体はタウ蛋白)を伴うが、老人斑(主体はアミロイドβ蛋白)をほとんど認めない認知症がADの亜型として知られていました。その後、日本人の研究者の報告からこの一群が新しい認知症であることが認識されるようになりました。この神経原線維変化性認知症は主に後期高齢者に記憶障害で始まります(発症は加齢と伴に増加し、90歳以上では認知症の20%を占める)。
進行はADに比して緩徐で、記憶以外の認知機能は比較的長く保たれること、人格の変化なども起こさないことが特徴とされています。画像的にはADや前回の嗜銀顆粒性認知症と同様に海馬領域の萎縮が見られるので、その鑑別は難しいところです。将来的には現在開発中のアミロイドイメージングやタウイメージングが実用化されるとこれらの鑑別に役立つ可能性があります。
本症も嗜銀顆粒性認知症と同様に、ドネぺジルなどのアセチルコリン系を賦活する抗認知症薬の有効性は示されていないので注意する必要があります。

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脳神経内科 (161号掲載)

2016年03月更新記事
新しい認知症疾患 ①

最近の認知症学の進展により新しい認知症疾患が知られるようになっています。ここでは嗜銀顆粒性(しぎんかりゅうせい)認知症と神経原線維変化性認知症を取り上げます。
嗜銀顆粒性認知症は、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症とならんで変性型認知症の重要な原因疾患のひとつであることが示唆されています。この認知症では特有の異常構造物である嗜銀顆粒(主体はタウ蛋白)が、側頭葉内側から頭頂葉にかけて出現します。症状の特徴としては、記憶障害が前景にたちますが、易怒性や性格変化、性的行動、触法行為(万引きなど)などの前頭側頭葉型の精神症状を伴います。アルツハイマー型認知症(AD)に比して、遂行機能(物事を段取り良く行う能力)の障害が軽度、認知症の進行自体も緩徐であることが指摘されています。画像的にはADのように海馬領域の萎縮(VSRADで初期からZスコア高値)が見られますが、左右差があることが多いとされています。
本症では臨床的にも画像的にもADと似ているところがありますが、ドネぺジルなどのアセチルコリン系を賦活する抗認知症薬は効果しないので注意する必要があります。

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脳神経内科 (160号掲載)

2016年01月更新記事
糖尿病と認知症の話 ⑤

糖尿病と認知症の関係で忘れてはならないのは低血糖の影響です。一般に血糖が70mg/dl以下になるとグルカゴンなどの血糖上昇ホルモンが放出されます。50mg/dl以下になると脳の機能障害で精神・神経症状が見られるようになります。30mg/dl以下になると意識レベルが低下して昏睡に至ります。このような低血糖発作は認知症の発症を2倍高め、認知症は低血糖発作を3倍高めるとされており、低血糖と認知症は双方向性の関係があります。また、高齢者における低血糖は転倒のリスクを高めるとも言われています。さらに、糖尿病における非致死的合併症はヘモグロビンA1cの上昇とともに増加しますが、死亡率はA1c6.4%未満(A1c基準値=4.6~6.2%)ではむしろ上昇(Jカーブ効果)することも報告されています。重症低血糖を起こしやすい患者の特徴としては、高齢者、スルフォニルウレア剤(特に腎機能低下者では要注意)かインスリンを使用、ヘモグロビンA1cが過度に低値などが挙げられています。糖尿病の治療では加齢と伴に適時薬を見直すことが重要で、漫然と投薬を継続していると薬が効き過ぎてくる可能性があります。糖尿病を持つ認知症患者では、食事や薬剤の管理だけでなく、体調不良時(シックデイ)の血糖管理など注意すべき点が多々あります。

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